語学と性格3 | ~人とコトバ~

語学と性格3

語学と性格2 の続き

 

語学の上達に関係する性格タイプ

 

④慎重さ

 

これは、③の社交性とやや矛盾する点もある。

 

留学生や研修生の様子を見ていると、大きく分けて2つのタイプがある。

 

ひとつは、初対面の人に話しかけたり、初級レベルの日本語で日本人と話したりすることに物怖じしないタイプ。当然、もともと話し好きな人が多い。ここでは勇敢タイプと呼ぼう。

 

もうひとつは、恥ずかしがり屋だったり、もともとあまり話し好きではなかったり、或いはプライドが高く、間違えることを気にするタイプ。ここでは慎重タイプと呼ぼう。

 

勇敢タイプは、社交性で合格。覚えたばかりの初級の日本語で、恐れずバンバン話しかける。通じる。楽しい。もっと話す。この循環で上達する人が多い。

 

では、いいとこずくめかというと、そうは行かない。このタイプは筆記のテストをすると、細かいところで間違いが多い。でも、話すときに通じるから、それで十分だと思ってしまうと、ブロークンなまま定着してしまう。初級の文法がいい加減だと、そのあとガクンと伸び悩み、上がっていかない。間違いも早いうちに直さないと、直せなくなる。

 

「話す力」は話題によって変わる。日常生活で必要な会話は、この勇敢タイプが有利だ。語学の練習相手となる新しい友達を獲得する力も備えている。でも、「一見ペラペラ」であることの危険性に本人が気づかないで、「あら、日本語が上手ですねえ」ということばに「いいえ、まだまだです」と言いながら、内心浮かれていると、いつの間にか慎重タイプに追い越される。日常会話以上の難しい話題、抽象的な話題でことばが出てこなくなる。

 

慎重タイプは、筆記の点数が良い場合が多い。このタイプは間違いが自分で許せないので、間違わないようにいつも気をつけている。話したいという気持ちはあっても、間違ったらどうしようという気持ちが先に立ち、話すときにことばが進まない。「間違えてもいいから話してみましょう」というアドバイスはあまり意味がない。性格だから、そんなに簡単には変えられない。だから、慎重タイプの発話力は、初級レベルだと勇敢タイプにかなわない。全然話せない人の筆記試験の高い点数を見て、本当に同じ人だろうか、と疑いたくなることは多い。

 

でも、慎重タイプはコツコツやっていくうちに、次第に自分の語学力に自信をつけてくる。勇敢タイプよりはだいぶ遅れて、話すことに慣れてくる。そうなると、土台が強固な慎重タイプは初級のあともしっかり知識と運用力を同時に積み上げていくことができるようになる。

 

日本に来て1ヶ月強の短期集中の日本語学習をし、そのあと仕事や研修で日本語を実践で使っている外国人を見ると、このタイプの違いが見事に表れるケースがある。1年後に会ったとき、勇敢タイプの日本語が当初とあまり変わっていない(大きな進歩がない)のに対し、当初は筆記の成績は良くても全く話せなかった慎重タイプの人が、ものすごく上手くなっている、というケースだ。

 

もちろん、実際には両者の真ん中に位置する人もたくさんいる。でもどうだろう。自分が外国語を学ぶときにも大いに参考になることではないだろうか。

私自身、インドネシア語に慣れてきた頃、簡単なことしか話せないのに、現地の人に「上手いねえ」と煽てられていい気になっていた時期があったと思う。きっと、間違いだらけのへんてこなことばで喋っていたことだろう。